昔々のことです。鳥一族と獣一族が戦争を始めてしまいました。
コウモリは、鳥一族が有利になると鳥たちの前に姿を現し、「私は鳥の仲間です。あなたたちと同じように翼を持っています」と言いました。また、獣一族が有利になると獣たちの前に姿を現し、「私は獣の仲間です。ネズミのような毛皮と牙があります」と言ったそうです。
やがて戦争は終わりました。しかし、何度も裏切ったコウモリは、鳥一族からも獣一族からも嫌われ、仲間はずれにされてしまいました。そして、昼は暗い洞窟の中に身をひそめ、暗くなるのを待つようになったそうです。
それから何年かは、平和な時が過ぎました。しかし、鳥一族の長(おさ)になったタカは、再び戦争を始めようと考えるようになりました。そして、取り巻きを使って獣一族の悪口を言いまわり、戦争に使えそうなものを集めるようにもなりました。やがて、理由がはっきりしないまま、鳥一族の中には獣一族に対する憎しみが広がっていきました。
タカが長になってから一族の様子がおかしくなってきたと感じ、これを変えようとした鳥もいました。ハトは、いたるところに出かけ、多くの鳥や獣が死んだ戦争の体験を語り、戦争に突き進んでいる状況を変えようと訴えました。しかし、ある日ハトは捕まってしまい、牢屋に入れられてしまいました。
九官鳥も、このままではいけないと感じていました。声をあげようとしましたが、ハトが牢屋に入れられたことを聞くと、怖くなってしまいました。九官鳥は、黙り込んでしまい、戦争が始まろうとする時になっても何もすることができませんでした。
戦争は、鳥一族の奇襲から始まりました。その後も、空を制する鳥一族が有利に進みました。そこで、獣一族の長であるオオカミは、取り巻きを集め作戦会議を開きました。
キツネが口火を切りました。「サルの仲間が火をつける道具を発明したと聞いています。それを使って、鳥一族の森を焼いてしまうというのはどうでしょうか」
「しかし、森までどうして行くのだ。鳥一族に見つかってしまうぞ」
「洞窟にコウモリが住んでいます。鳥とは違い、やつは、明かりがなくても飛ぶことができます。月の出ない夜を選んでコウモリにやらせましょう。仲間に入れてやると言えば、喜んでやるでしょう」
キツネは、サルの仲間の所へ行き、火をつける道具を取り立てました。そして、コウモリに道具を渡し、作戦を教えました。
「そんなことをしたら、一度におおぜいの鳥たちが死んでしまいます」
「やっぱりお前は鳥の仲間なのだな。それならお前を殺してしまうぞ」
月の出ない夜が来ました。コウモリは、鳥一族の森に火をつけました。火は、たちまち燃え広がり、多くの鳥たちが犠牲になりました。燃え広がった木々で眠っていたヒナのほとんどが焼け死に、ヒナを守ろうとした多くの親鳥は、煙に巻かれて命を落としました。
九官鳥は、その場にいましたが、大火事が相手では何もできません。悲惨な状況を目の当たりにしながらも、やっとの思いで逃げ出すことができました。しかし、生き残った自分が、何か悪いことをしたようにも感じ、大きな声を出して泣きました。
「あの時、自分が声をあげていれば、こんなことが起きなかったかも知れないのに」
九官鳥は、二度と戦争が起こらないように、そのためならどんなことでもすると心に誓いました。
大きな犠牲を払い、鳥たちの中では、一族のしくみを変えようという声が広がりました。ものごとを長が決めて、残りが従うというしくみではうまくいかない。長が悪いから戦争が企てられたのですが、しくみが悪いから止められなかったということです。
九官鳥は、掟を作ろうと言いました。「長も従うべき掟があれば、戦争をしないという掟があれば、同じことが繰り返されることはない」
九官鳥の意見に、鳥たちは驚きました。しかし、あの悲惨な戦争を二度と起こさせないためにはそれが一番だと、掟を作ることになりました。そして、その案を九官鳥に作るよう頼みました。
「私ひとりでは無理です。でも、今度の戦争の前から声をあげていたハトさんたちとならできる気がします」
九官鳥たちが作った掟の案には戦争をしないことが明記されていました。また、戦争に使うためのものは一切持たないことも付け加えられていました。
鳥たちの中から、「次は獣一族が仕掛けてくるかも知れない。手ぶらでは心細い」という声が聞こえました。九官鳥が答えました。
「私たちは、正しいことを先に行うのです。戦争ではなく、話し合いで解決するというのが正しいことではないでしょうか。戦争をすればお互いに犠牲が出ることは避けられません。私たちが先に決め、戦争に使うものを持たないことで、戦争が起こらなくなるのです」
その後、鳥たちは話し合い、これまで持たなかった権利なども掟の案に加えていきました。ハトが牢屋に入れられた反省により「思想及び良心の自由」や「言論の自由」なども入りました。また、長が自分の都合で簡単に掟を変えることができないような手続きも定められました。
九官鳥が説いた「正しいこと」は、「戦争の放棄」として第九条に入れられました。そして、この掟は、すべての鳥たちの賛成で決められたのです。
掟が決まってからは、鳥一族は二度と戦争することがなく、また仕掛けられることもありませんでした。それでも、何年か後に時の長がこの掟を変えようと言い出し、戦争を知らない鳥たちが耳を貸すことがありました。そこで、九官鳥やハトたちが戦争の恐ろしさを語り、平和の素晴らしさを説いて回りました。九官鳥は、ハトが牢屋に入れられていた間に起こされた大火事の悲惨な状況を話し、そんな酷いことを起こさせないため、掟を守ることを訴えたのです。
九官鳥の話を聞いた鳥たちは、掟を変えることをやめました。そして、九官鳥にその話をいつまでも語り続けて欲しいと頼みました。九官鳥は、そのことを受け入れ、また掟が守られたことを誇りに思い、時にはうるさがられても語り続けたそうです。
九官鳥がおしゃべりなのは、実はこういうことがあったからなのです。